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写心

 2018     Apr 15, 2019

絵には絵心という言葉があるが、写真には同じような言葉はない。
絵心というと、上手に絵を描く画力ばかりでなく、味わいやおもしろみなどいわゆる趣のある絵を描くことの意味合いもあるだろう。写真に、はたまた写真を撮る人に絵心と同じようなものが必要ではないかといえば、そうではないだろう。

絵には絵の良さ、写真には写真の良さがある。
写真にしか見えない絵を描く人なんてのがいるが、その画力はすごいと思うものの心に響く作品かと問われればそうとは思わない。個人的にはそんな絵は欲しいとも思わない。絵では正しい、正しくないが重要なのではない。現実と同じである必要がなく、それよりも自由と柔軟性のほうがはるかに重要に思う。非現実にさえも描くことができる。
それに対して写真は良くも悪くも現実を写す。現実的に実現が困難なものは撮影することはできないし、自分の思いどおりにもならないことも多い。
人物写真でいえば、背景によけいなものが写り込んだり、用意したモデルでなければ相手がしかめっ面をするかもしれない。肌荒れとかそういった写したくないものまで写ってしまう。肌荒れ程度あれば自然な感じに編集することもできるかもしれないが、しかめっ面を笑顔にしたり、全員を美少女に仕立てあげたりってのは困難であろう。
絵であれば、自分の理想の容姿を思いどおりに表情で描くだろう。現実をそのまま表現する写実絵画であっても、わざわざ肌荒れは描かないだろうし、鼻毛が出ているとか、目やにがついてるなんてなかろう。背景に作品を邪魔するよけいな人物やゴミを描くこともない。
写真の一瞬はどうにもならない、本当の姿形なのである。そうには違いないが、肉眼で見るのとは違うように写ることもある。
設定で明るさや色合いを変えて非現実的に撮ることはできる。でも、それでは姿形までは変わらない。スローシャッターなどの撮影テクニックを使って、わざと現実と違うように撮るってこともあるが、カメラの特性によって勝手にそうなってしまうものもあるのだ。
歪みやボケなんかがそうだ。白飛びや黒つぶれなんてのもある。カメラが再現できる範囲を超えると白や黒に塗りつぶされた状態となることだ。どれもクセのあるものだが、歪みやボケはその特性を逆にいかした写真が人気でもあったりする。白飛びと黒つぶれは失敗写真とされてしまうことが多いが、積極的につかうことで主題がより引き立つことだってある。
特有のクセは味わいやおもしろみにもなる。現実そのままとは違う写真。写真においても大切なのは現実と同じかどうかではない。絵心があるような、趣のある写真を撮ろうとすることが大切なのである。