India

憂鬱カレー

朝、目覚めると遠くからかすかに音が聞こえる。ペッタンペッタン。チャパティを作る音だ。「・・・。はあ、今日もカレーか。」そんなため息まじりのつぶやきで一日が始まる。なんとまあ、くだらなく憂鬱で嫌な一日の始まり方だろうか。
旅先の食事というのは旅の楽しみのひとつではあるが、ラダックはそうでもない。チベット文化が根付くラダックは、チベット料理も多くあるが基本はカレーやダールといったインド料理。ラダック料理というのもあるのだが、レストランには滅多にないのでほとんど出会うことがない。
チベット料理は好きだがカレーは好きじゃない。そういう好みの問題もあるが、ラダックでの食事は代わりばえがしなく単調なのがつらい。ラダックの中心地のレーなら食事は幅広いが、地方では選択肢はなくいつも同じようなものだ。
まあ、行ってみれば分かるが辺境のような土地では食べられるだけでもありがたいと思うような場所ではある。それは分かってはいるのだが、ずっと同じはつらい。朝はチャパティにバターとジャム、あとはオムレツという名の薄焼き卵か目玉焼き。昼と晩は野菜のカレーにダールという豆のカレーと生野菜、運が良ければ野菜の炒め物やスープなんかが出てくる。
地方を中心に旅行していると野菜の種類も限られていて、ニンジン、玉ねぎ、ジャガイモ、トマト、キュウリ、キャベツ、豆、カリフラワーそんなところだ。なんだいっぱいあるじゃないと思うかもしれないが、これらを用いて作るのはもちろんカレー。野菜を炒めてもカレー味、スープがあってもカレー味。
カレーカレーカレーと続けられると、当然しばらくカレーの顔は見たくなくなる。少し落ち着くまでは別居したい。体の中からカレーがなくなるまでとことん他の物を食べ続け、カレーのことなどさっぱり忘れた頃にならまた仲良くやれるだろうけど、今はもういい、寝たふりしてる間に出て行ってくれ。
地方では肉もそうそうない。もちろん魚もない。スーパーマーケットなんかないし、肉屋もない。肉を食べるには絞めるしかない。貴重なのである。そんな中、まれに出会う肉やチベット料理は心と体に染みる。日本では当たり前のような食事でも本当に感動する。人生で一度はこういうところに行って、食事のありがたみみたいなものを体験した方がいいと思う。彼らはあの感覚を味わうために、普段ずっとカレーばかりを食べ続けているのかもしれない。