India

不殺の使徒

 2012     Feb 05, 2021

小チベットと称されるラダックは、今や「チベットよりもチベットらしい」といわれる。1966年から10年間、中国の文化大革命によって、チベットの建造物や仏教美術、伝統文化はほとんど破壊されてしまったが、インドに属していたラダックは影響を受けず、チベット本土よりも古い文化が残る形となったためである。
チベット仏教の建造物や仏教美術は、非常にエキゾチックに映る。岩山をまるごと僧房で埋めつくした僧院のゴンパ。寺院の壁面を飾る大小の掛軸のタンカに極彩色で描かれた釈迦や曼荼羅図。宗教儀礼が芸術へ昇華した砂曼荼羅。仏具であるマニ車や、五色の祈祷旗のタルチョ。どれもこれも、独特で創造的才能を表現する傑作だ。
一方で、世界でもっとも仏の教えを忠実に守っているといわれるチベット仏教の教えに関しては、まるで興味がわかない。ダライ・ラマとかも、どうだっていい。
チベット仏教の特徴として、まず聞くのが不殺生戒。生きものを故意に殺してはならないという、仏教の五戒のひとつだ。チベット仏教徒は、ハエや蚊でさえ殺さず逃がすという。だが、彼らは肉食であるという大いなる矛盾がある。生きていくために必要なんだそうだ。
ラダックのチベット仏教徒も、自分達で動物を屠殺せず、イスラム教徒などが屠殺した肉を購入している。それで、不殺生戒を守っているというのはいかがなものだろうか。
日本人である私も、自分で動物を殺して食べることはまずない。それでも、動物の命を奪っている意識はある。漁師や屠殺業者が屠殺し、生産したさまざまな食品を口にしていて、不殺生戒を犯していないとは言えるはずもない。
ハエや蚊などの害虫を駆除するのも、好き好んで殺しているわけではない。デング熱やマラリアなど害虫を媒介する危険な病原体があるからだ。チベット仏教徒は害虫を殺さないため、ぞっとするほど食べものにハエがたかっていたりする。生きていくために必要だからと、肉は食べながらも、病気や死の恐れなどがある害虫は放置する。これ、なんか違うと思うんだ。