マケドニアといえば、かの有名なアレキサンダー大王の、古代のマケドニア王国を思い浮かべる人が多いだろう。
東方遠征により、東西文化を融合させ、ヘレニズム時代をもたらしたとされる偉大な英雄。偉大すぎるがゆえに、2000年以上も経過した現代においても、問題の引き金となっている。
マケドニア共和国は、2019年2月に国名を北マケドニア共和国に改名した。
1991年にマケドニア共和国として独立をしたが、国名にギリシャが反発。古代のマケドニア王国は、マケドニア共和国のほかに、ギリシャ、ブルガリア、アルバニアにまたがる地域であったため、国号を改めるよう要求したのだ。マケドニア共和国は、国名を自国で決める権利は認められるべきであると主張したが、ギリシャは納得せず、マケドニアに経済制裁を課した。このため、マケドニアは国際的な暫定呼称を変え、1993年にマケドニア旧ユーゴスラビア共和国として国連に加盟した。
国名だけでなく、ギリシャは、マケドニアに対してかなり無茶な要求をしてきた。
古代マケドニアと類似したヴェルギナの星を用いた国旗を変更させ、憲法改正も求めた。首都のスコピエ・アレキサンダー大王国際空港も名前を変えることになった。スコピエのマケドニア広場に設置された高さ22メートルのアレキサンダー大王の大理石像も、馬上の戦士の像と名乗っている。
ここまでマケドニアが譲歩するのは、1995年に経済制裁を解除されたものの、ギリシャがマケドニアのEUとNATOへの加盟に拒否権を発動するからだ。
その問題が北マケドニア共和国に改名することで、ようやく決着がついたのである。2020年3月に、30番目の加盟国としてNATO加盟が実現し、EUの加盟交渉開始も承認された。
滑稽だと思うのが、古代のマケドニア王国は、たしかにギリシャの都市国家であったとはいえる。しかし、アレキサンダー大王が存在したころ、当時のギリシャ人は、ギリシャの中央はアテネやスパルタとし、マケドニア王国のような片田舎の都市国家は認めようとせず、軽蔑の対象であった。それがいつのまにか「マケドニア」という国名は、ギリシャ人にとって誇らしい言葉に変わってしまっているのである。