南インドの女性の朝は、玄関先を清めて、コーラムと呼ばれる床絵を描くとこから始まる。コーラムとは、米粉などを用いて描く幾何学模様で、女性達が毎朝祈りをこめながら描く。
その模様の美しさもさることながら、描いては消える儚さにも惹かれる。通常、絵やアートというものは、形に残そうとするものであるが、コーラムは通行者が踏むことで消えていく。翌朝には、また新しいコーラムを同じ場所に描く。その場所は、祈りと美しさと儚さに満ちているのである。
コーラムの楽しみは、独特な描きかたにもあるだろう。コーラムは、ペンや筆のようなものは使用しない。何も道具をつかわずに指先で粉をさらさらと落として描くのである。まず、点だけを置いていく。その点と点を線でつないだり、点と点の間を縫うようにして線を描く。
模様は、いくつものパターンが頭にインプットされている。祖母から母へ、母から娘へと、代々受け継がれてきたものだ。
コーラムで困ることがある。コーラムは、幸福と繁栄の女神ラクシュミーを家に迎え入れるための幸運の印とされている。コーラムが消えることは、神の訪れと解釈され、消えてしまうことが良しとされる。
だけど、踏みづらいったらありゃしない。芸術的なコーラムほど、踏むのをためらって避けて歩いてしまう。だけども、その家の人にとっては、踏まれて消えていくほうがいいのだ。それをわかっていても、やっぱり踏むのは避けたいのである。