バリ島の高地にあるウブドは、ガムラン音楽、バリ舞踊、バリ絵画などが盛んで、芸術の村として知られている。ウブドではバリ舞踊が毎夜どこかで 、村の集会所や寺院、王宮、美術館など、いろいろな会場で上演される。
一口にバリ舞踊と言っても、非常に数多くの種類があり、踊りに込められた意味もさまざま。もし、どれかひとつだけバリ舞踊を観るとしたら、私はスマララティのバリスを選ぶ。バリスは、戦場に赴く戦士の舞として、悪魔払いとして奉納される儀礼舞踊。スマララティ歌舞団は、ウブドの中心地から少し離れたクトゥ村を拠点にしたグループで、従来、グループは村の出身者で構成されるものであったが、その枠をはじめて超え、インドネシア国立芸術大学の卒業生を中心に優秀な者を集めたメンバーで構成したグループ。そのスマララティのリーダーであるアノム・プトラ氏は、バリスの第一人者である。
彼のバリスは、表情も秀逸で際立っている。目を見開き、脚を大股に開く迫力のある力強い動きに、非常に細かな目の動きや足使い。吸い込まれる魂の踊りは、圧倒的である。空間を掌握しているという言葉がピッタリなほど、間合いが絶妙で、優美なガムランの音色と共に、神秘の世界へと誘い込み、見る者の心の奥底まで響かせ虜にする。