はじめてカラーシャの谷を訪れてから、訪れるたびに戦い続けている相手がいる。その相手は、虫である。
人にとって嫌な虫というのは数多く存在するが、カラーシャで気になるのは、ハエと何かだ。何かというのは、実際にはその姿を見ていないので、原因となっている虫が特定できないのである。ハエのほうは、ハエが無数に飛び回っているので、食事が落ち着いて食べていられないくらいしか被害はない。ちなみにこれは、カラーシャの谷だけでなく、パキスタンどこでも同じ。もう一方の何かわからない虫は、何がやっかいかというと、虫刺されがひどいのだ。おそらくノミかダニではなかろうかと思っている。
足首や太もも、お腹周りを特にやられる。症状は激しい炎症とかゆみ。1箇所だけ刺されるのではなく、周辺もまとめてやられる。蚊のように、刺されて数時間程度で症状がおさまるものでなく、数週間から1ヶ月くらいかゆさが続き、刺された痕は数ヶ月は残る。
はじめて訪れたときにひどくやられたので、2回目はいろいろと対策をしていった。刺されたあとに塗る薬だけでなく、定番の虫よけスプレーと殺虫剤、それに加えて、布団の中で使用する筒型のインナーシーツなるものを購入し持っていった。しかし、結果は惨敗。その次は、宿の布団や毛布は使用すまいと、寝袋を購入したものの、少し減った程度であった。
困ったのが、刺されているところを目にしたことがないので、犯人ならぬ犯虫の正体がわかっていないことだ。どこで、何の虫に刺されているのかがわかれば、もっと効果的な対策もできるのだが、憶測で対策するしかない。
ふと、ずっと寝床の対策に力を入れてきたが、寝床が原因ではないんじゃないかと思った。それはなぜかというと、不思議と腕あたりが刺されることはあまりなく、首や顔なんかは一度も刺されたことがないのである。宿以外となると、カラーシャ族の家が一番怪しい。カラーシャの家はお世辞にも綺麗とは言えない。土足だからか床が土なこともあるし、部屋の中で薪ストーブをするからか、部屋がすすみたいなので黒ずんでいる。日当たりや換気も良くなく、謎の節足動物が徘徊していたりする。
カラーシャのお宅にお邪魔すると、きまって編み込みの椅子を出してくれるのだが、その椅子がめちゃくちゃ低い。高さ10cmくらいなので、ノミなりダニなりが、はい上がって来そうではある。あと、小学校を訪れたときに、靴を脱がなければならないタイプの教室がある。あそこも怪しい。あとは子供との接触からという線もある。また新たな対策のはじまりだ。
そんなこんなと、ずっと対虫対策をしているのだが、今回はじめてノーダメージだった。減ったどころか、1箇所も刺されなかったのである。たまたまかもしれないが、そうでないことを切に願う。