約2,500ものストゥーパ(仏塔)が針山のごとく林立する、まさにストゥーパの森。
ミャンマー北東部の観光地、インレー湖から山脈を迂回して、車で約2時間のところにあるカックー遺跡。2000年に外国人に解放されたばかりで、近年までは幻の遺跡とされていた。少数民族パオ族の特別地区にあり、今でもパオ族の同行がないと立ち入ることができない。パオ族の聖地である。
伝説では、紀元前3世紀にインドを統一したアショーカ王が建てたという白い仏塔の周りに、12世紀のパガン朝の王が周囲に住む人々に、各家庭ひとつずつ仏塔を寄進するように命じたのが、始まりとされている。遠目には同じに見える仏塔も、よく見れば形や大きさ、装飾が少しずつ違う。カックー遺跡の仏塔には3種類あるという。仏塔はビルマ族、シャン族、パオ族など、各民族の様式で作られており、寄進した人の財力により、大きさや装飾が異なるようだ。
カックー遺跡を訪れたら、ぜひ耳をすませるといい。カックー遺跡は目で見て楽しむもんだと思っていたが、その音を耳にすれば、この音を聞くためにわざわざやって来たんだという気持ちになるだろう。
チリンチリン、風が吹くたびストゥーパの上部につけられた装飾が一斉に風鈴のような音を奏で、遺跡全体に響き渡る。ストゥーパの森をさまよいながら、四方から聞こえてくる鈴の音に耳を傾けていると、自分がいったいどこにいて、何をしていたのか、自分がいったい何なのかさえ、わからなくなってしまいそうな、そんな不思議な感覚がしてくる。ただでさえ、ストゥーパが密集して並ぶさまは壮観で見るものを圧倒するのに、そのなかで遺跡が鈴の音で合奏するのだからたまらない。