行ってみたい国というのは、一度行ってしまえば、そこはもう「行ってみたい」国ではなくなるわけで、一番行ってみたい国は次々と変わっていく。しかしながら、もう何年もずっと一位の座をキープし続ける国があった。
一番行ってみたいのだから、普通は旅行先の候補地の一番手となるはずだが、その国は候補にもならず。ただただ、行ってみたいだけの憧れで終わっていた。その理由は予算的に手が出ないとか、時間的にむずかしいとかではなく、行く勇気がなかったのだ。
その国の名はパキスタン。
パキスタンといえば、かねてより旅行者の憧れの地として有名なフンザが人気だが、私が行きたいのは、カラーシャと呼ばれる少数民族が住む谷。パキスタンではイスラム教を信仰する人がほとんどだが、カラーシャ族は独自の神を信仰し、カラフルな刺繍をあしらった民族衣装を着て暮らしている。
似たような民族衣装を着る民族は、ベトナムや中国の山岳地帯にいたりするが、それらと異なるのが顔立ちだ。白い肌でアーリア系の顔立ちをしている。まれに青い瞳もいるらしい。ビーズや貝殻などで装飾された頭飾りや、前髪を三つ編みした姿も特異的で、はじめて目にしたときから、ずっとハートを撃ち抜かれたままなのだ。
弱ったことが、このカラーシャが住むチトラールはアフガニスタン国境にほど近いということ。チトラールはぎりぎり大丈夫だが、すぐ先は外務省が退避勧告に指定しているエリア。
はじめてのパキスタンは安全とされるフンザ方面だけにしようかと悩んだが、私が行きたいパキスタンはフンザではなくカラーシャなので、カラーシャに行かないのならパキスタンに行く意味がない。
しからば、限界サイズの大きな期待と不安を胸に抱きながら、いざカラーシャへ。
ネットや本などでカラーシャの姿は何度も見てきたが、はじめて目にした本物のカラーシャはそれらで見ていたカラーシャよりずっと可愛く、こんなのいるのなら「もっと早く教えてくれよ」とつぶやくほどであった。