カラーシャ族が住むエリアを含むチトラール一帯では、外国人の観光客は警察の護衛をつけなければならない。
チトラールの街中もカラーシャ族が住むエリアも平和そのものだが、防弾チョッキに自動小銃と、ものものしい装備の護衛がついてくる。護衛でもあるが、入域制限エリアに勝手に入らないよう、監視の目的もあるらしい。
それにしたって、ホテルの部屋以外の場所では、常に行動をともにしなければならないというのだから、わずらわしいことこの上ない。
そもそも、護衛がひとりついたところで安全なのかは疑問だ。もし、武装集団でも現れようなもんなら、護衛ひとりで太刀打ちできるわけがない。テロにしたって、外国人を標的にするのもあるが、軍や警察を狙うのも多い。武装している以上、真っ先に狙われるのは護衛だし、次に危険なのは、その横にいる私な気がする。
そんな治安や情勢の不安もあったが、それよりも誰かとずっと行動しなければならないというのが、息が詰まりそうでやっていけるかが一番の問題であった。
護衛が常につくという情報は事前に知り得ていたので覚悟はしていた。
思わぬところで便利なところもあった。道案内はもちろん、レストランで注文もしてくれるし、タクシーの値段交渉もしてくれる。それに警察と一緒だから、悪いやつは寄ってこない。ガイドだと思えば、いくらかましだろう。
それでもやはり、不自由なことのほうが際立つ。ホテルに着くといなくなってしまい、出歩きたいときに出歩くことができなかったりする。カラーシャの村を案内してくれるのはいいのだが、知り合いのいる場所ばかりに行きたがる。そこで決まって話し込むので、護衛待ちの時間がもどかしい。ずっと護衛のペース。だんだんとフラストレーションがたまる。
最後はなかなか腰を上げない護衛に業を煮やし、ぐずって動かない子供に置いていくそぶりを見せる母親と同じようにして、護衛があわてて追いかけてくるのを待つのである。