ウズベキスタンの西部にある町、ヒヴァ。この町での過ごし方は決まっている。
午前中は一番のお気に入りの女の子の家に行って、そこの家や近所の子供らと過ごす。天気が悪い日には家の中に入ることもあるが、ほとんどは家の前にある階段のところに座っている。午後はまた違う家へ行くこともあるが、同じように過ごすもこともある。
これといった観光はしない。観光はしないが、子供らと近所を散歩するのが日課のようになっている。彼女らはイチャン・カラという世界遺産に登録されている旧市街に住んでおり、そこには50以上の歴史的建造物があるので、あらたまって観光しなくても歩けば目に飛び込んでくるのだ。
とある日、いつものように訪ねて行くと、年上の子たちはみんな学校へ行っているようで、いたのは三歳児だけ。いつものように散歩に行こうと言ってくる。言葉の通じない三歳児とふたりきりで散歩というのは、いささか不安ではあるものの、この子は私の膝の上が定位置なくらいに慣れているし、トイレも自分で行くことができるようなので、大丈夫だろうと出かけることにした。
折り返し地点でソフトクリームを買って、木陰にふたり並んで座って食べていたところ、周りの誰かが騒ぎ出し、最近できたツーリストポリスを呼んだ。ああ、面倒くさいことになった。この国で旅行者の一番の敵は、警察官なのだ。
警察官がやってきたものの、英語が話せないのか、私には質問してこない。周りの人に状況を確認し、三歳児にばかり質問する。ウズベク語なので、何を会話しているかはわからないが、三歳児がソフトクリームをなめる合間に答えている単語から察するに、名前や住所、私のことなんかを聞かれているようだ。いろんな質問をされているが、私のことはさっきからずっと名前しか答えてない。それしか知らないんだろう。年上の子がいたら日本人だとか、泊まっているホテルだとか、何年も前から知っている関係だとか、答えれたんだろうがしかたがない。だらだらと溶け出したソフトクリームでベトベトになってきた三歳児の口や手をふきながら、がんばるんだと心の中で応援するしかない。
このあとどうなるのだろうか、不安でいっぱいのなか三歳児がソフトクリームを食べきったところで、さっさと帰ろうとすると、警察官が「この子は警察署に連れて行く」と英語で言ってきた。英語喋れたんかい。
警察署に連れてったところで何も変わらんだろうと、とりあえず拒否して、背を向けて歩き出してみる。内心はドキドキである。家まで付いて来てくれればなんとかなるし、というかそれしかないように思う。
すぐさま警察官が追いかけてくると思ったが、少しして周りにいたお土産屋さんの女性が付いて来た。どうやら、この人が家まで見届けることで、警察官を説得してくれたようだ。
三歳児の足でも片道10分くらいの道のりの散歩なのだが、どっと疲れた散歩になった。