ショプスカというサラダを紹介したい。ショプスカ・サラダは、ブルガリアのサラダで、南バルカンの一帯でよく食べられているサラダだ。
ショプスカという名前は、ブルガリア、セルビア、マケドニアにまたがる山岳地帯のショプルク地方からきている。ショプルク地方にちなんで命名されているが、この地方発祥のサラダというわけではない。実は1955年頃に、ヴァルナ近郊の黒海のリゾート地で、ブルガリア最古の国営観光会社の一流シェフ達によって、観光振興の一部として考案されたものなのだ。ショプスカ以外にもいくつかのサラダがあったそうだが、ショプスカだけが唯一の生き残りのレシピらしい。
ショプスカのレシピは実に簡単である。トマトときゅうりを角切りにする。たまに玉ねぎやローストしたパプリカが入っていたりするが、トマトときゅうりだけでも充分だ。その上に、シレネという塩気と酸味の強いヤギや羊のチーズをすりおろす。ふんわりとすりおろされたシレネチーズが、ドレッシングのように野菜によく絡まり、乳製品の塩気で味をつくり、素敵にマリアージュするのである。
レストランでショプスカを注文すると、オリーブオイルとバルサミコ酢は別で提供される。これを自分好みで調整し、口に運べば全身を電撃が走ったような衝撃がある。バルサミコの酸味のせいだろう。
ショプスカは誰が作っても同じになりそうなくらいに簡単なレシピであるが、店によってまったく味が異なる。ショプスカが抜群においしい店はわりと少ない。ただし、ショプスカがおいしい店は、なにを食べても間違いない店なのである。
このショプスカには、ラキアという食前酒と組み合わせのが定番だという。ラキヤはぶどうなどの果実からつくる蒸留酒で、アルコール度数が40〜60%と食前酒らしからぬ強い酒。正直、この組み合わせがよくわからない。ラキアが想像つかないなら、ウォッカで想像するといい。ウォッカとみずみずしいサラダ、合うだろうか。何度もトライしてみたが、ショプスカとラキアは、いつまでもマリアージュしなかった。また訪れたら、またトライするだろうが。