かつて、ベネチアの商人マルコ・ポーロが「絵に描いたように美しい街」と称えたグルジアの首都トビリシ。トルコからカスピ海へと流れるムトゥクヴァリ川が市街を蛇行し、三方を山に囲まれている。
古くからの東西文明の交差点であり、幾多の侵略と攻防を繰り返してきたこの街は、民族や宗教、さまざまな文化が混じり合い、独自の文化を育んできた。現代のトビリシはというと、19世紀の街並みが残る旧市街に、6世紀から14世紀にかけて建てられた教会や要塞などの歴史的建造物、旧ソ連時代の共産的な雰囲気の建築物、近未来的なデザインの建築物が乱立するカオスな街となっている。
近未来的な建築を生み出したのは、第3代大統領のサーカシヴィリ。脱ロシア路線の改革を推し進めるなか、「近代化にはクレイジーで大胆な建築が必要」という謎理論により、大胆なデザインの現代建築が国じゅうに出没することになった。
スチールとガラスの屋根を持った殻のような構造の平和の橋。ホーンを連ねたような管状のコンサートホール。キノコの傘を重ねたような屋根の合同庁舎。トビリシの旧市街の風景に、奇抜なデザインの建築物が不思議とマッチする。
サーカシヴィリは2012年に失脚し、サーカシヴィリと異なる方向性の新政府は、サーカシヴィリの作った建築物の使用を拒み、建築途中だったものは工事が中断され、そのまま放置されたままとなっている。