バリ島の緑豊かなウブドは、閑静で落ち着いた雰囲気で、ゆったりとした時間が流れる癒やしのリゾートとして人気の地。とはいえ、街の中心はごちゃごちゃとしており、ひっきりなしに車やバイクが通り、多くの観光客が行き交うため、まったくをもって癒やされはしない。
そんな表通りから、一歩奥へと足を踏み込めば、散歩したくなるような散歩道がいくつもある。広がる田園風景や、緑一面の草原、ヤシの木に囲まれた小道、スバックと呼ばれる水利システムによって作られた用水路など、素朴ながらも飽きることはない。歩き疲れたら、隠れ家のようなカフェで足を投げ出して、放し飼いのアヒルが気ままにエサ探ししている姿をぼんやりと眺める。ウブドで一番楽しいのは散歩だ!と言っても過言ではないくらいである。あいつさえいなければ。
ウブドの散歩で、警戒しなければならないことがある。ひとつが、歩道のあちこちに空いている穴。もうひとつは、人がご機嫌で散歩していると必ず現れるあいつ、犬だ。
バリの犬は、知らない人間が通ると、これでもかという勢いで吠えてくる。基本的に放し飼いなので、その鳴き声を聞きつけて、近所から犬がどんどん出てきて、大集結する。日本で見慣れた犬の姿ではなく、別の生き物のようである。病気なのか、毛がなかったり、喧嘩したのか、傷だらけだったりする。ワクチン接種なんて、しているはずもない。
2008年に狂犬病が流行し、大量に処分されたらしいが、それでもめちゃくちゃ多い。あまりにも吠えられるので、一度、散歩中に何回吠えられるのかを数えたことがあったが、折り返し地点に着くまでに10回を超えたあたりで、数えるのをやめた。