インド亜大陸の最南端西部、アラビア海に面した南北に細長い形をしたケララ州。インドのなかで、もっとも南国情緒漂う場所だ。「ヤシの国」という意味のケララ。その雰囲気を大いに味わえるのが、バックウォーターと呼ばれる流れのほとんどない川と入り江が複雑に入り組んだ水郷地帯である。
のどかな水田風景、ヤシの木をシルエットに夕日に染まる南国らしい景色、キングフィッシャーなどの野鳥のバードウォッチング、水郷地帯に暮らす人々の暮らしを垣間見ることができる、緑豊かな水上の楽園だ。
バックウォーターの楽しみかたは、大きく分けてふたつある。
ひとつは、ヤシの木が生い茂る水路を行き来する船旅。船にはいくつか種類がある。ベッドルームやシャワーが完備され、専属のコックまでいるハウスボート。観光用のクルーズ船。小舟で船頭が漕ぐタイプの貸し切りボート。地元の人々を乗せて走る水上バス。
もうひとつは、バックウォーター内での宿泊だ。船旅でも、子供が小船で学校に通う姿や、漁や洗濯をする姿などは見ることができるが、それは一瞬。楽しそうなものを発見しても、すぐに過ぎ去ってしまう。
実際に地に立ってみないとわからないことだってある。水と木の匂いがする空気。足の裏から感じる心地いい土の感触。それに大きな船は入れない水路もある。
船も風も通らない場所では、水面に映り込んだ、もうひとつの世界が広がる。そこには音もなく、世界に自分だけしか存在してないような感覚に襲われるほどに静寂な時間が流れる。なんだか本当に、水中にヤシの木が生えているような気さえしてくる。本物のヤシの国は水中にあるのかもしれない。もしかして、信じて飛び込めば、水中の幻想的な世界へ行けるのかもしれないが、なかなか飛び込めないものだ。