パキスタンの小学校は5歳〜10歳までと、日本より1歳早くスタートする。5歳のクラスの顔ぶれは、5歳ってこんなに小さいっけ?と思うほどに幼い。多動的な子供が多く、活動性がありすぎて、元気な子供達は、はしゃいだり、走り回ってたりする。そんななか、ごくまれに落ち着いているというか、ちっとも動かない子というのがいる。
その動かない子は、本当に動かない。このくらいの年齢だと、授業中に誰かが喋りだすと、つられて喋べりだしたり、誰かが立ち上がって席から離れると、つられて動きだしたりするもんだが、喋らないし、動かない。なんなら、みんながノートに書き取りしているときでさえも、机にはノートも教科書も出していないし、微動だにしない。休み時間だって、自分の席に座ったままだ。あまりに動かないので、ちょっと心配になるが、先生に個別に指導されると、ノートを出したりしている。
おとなしいとか、おっとりとか、ぼーっとしているとかとは違う。動かないという強い意志のようなものを感じる。鉄の意志。動かない王なのだ。王ゆえモブとは、なれ合わないし、愛想なんて振りまかない。むろん、どこぞの国からやってきたわけのわからない私に対してなど笑わないし、なつかない。だけども、私はこの動かない王が好きだったりする。
王に折り紙で作った指輪を献上したときのことだ。王は指輪を受け取とりはしものの、自らはめようとはしなかった。やがて見かねた直属の家来と思われる者(席の近いクラスメイト)が、王の手を取り指輪をはめて差し上げる。それでも王は指輪をながめたりはしない。お気に召さないのだろうか。だが、外しもしない。指輪ははめたままである。表情からうかがい知ることはできない。動かない王なのだ。