好きな子はいつだって周りにばれている。すぐ顔に出るし、態度にも出る。まあ、そもそも隠す気はまるでない。
好きな子の名前に、適当に勝手な節をつけて口ずさんでいたりするので、誰のことが好きなのかは、近所の子の間では周知の事実となっているのである。とはいえ、さすがにその子がその場にいない場合には、その子の名前を出したりしない。しかし、とある村では、ひとりの女の子の名前を、四六時中に口にするやつだと思われてしまっている。どんだけ好きなんだよってあきれられてるかもしれない。
彼女の名前は「暑っつー」とか「寒っ」とか、そういった無意識のうちに思わず声に出てしまう日本語に似ているためだ。名前を言っているつもりはないので、タイミングがおかしい。たとえるなら、風が吹いてきたときに、名前を言いながら、一枚羽織る。寒さで手がかじかんだときに、両手をこすり合わせながら名前を言う。そんな感じだ。
唐突に、その場にいない人間の名前を言う。それも日本語に似ているものの、まったく同じではないので、変なあだ名で呼んでいるように思われているだろう。
雰囲気や会話から、完全に誤解されているなというのはわかる。誤解されているのは、まあいいとして、誤解ついでに誰かがその子を呼んできてくれたらいいのだけど、そこまでは気がきかないんだな。