カラーシャで定宿にしている宿は、3食付。ここ最近では、カラーシャの谷にもレストランがちょこちょこできてきたが、それでもかなり少ないので、宿で食事が取るのが一般的なスタイルだ。
定宿にしている宿は、食事込みの料金となっているため、食事のたびにお金は支払わない。カラーシャの谷では、お金をつかう場所があまりないため、滞在中はめったにお金を支払うことがない。この宿には1週間や10日など、長く滞在することが多く、最大その日数の間ずっと一度も財布にふれることがなかったりする。
1週間も財布にふれていないと、財布という大事なものへの意識が薄れつつある。ひさしぶりに支払いの場面がやってくると、緊張が走る。かばんのなかに財布はあるのか。財布のなかは無事なのか。どんどんと不安が押し寄せてくる。毎度毎度、こんなにも心配になるなら、日々確認をしておけばよかったと悔やむのだが、存在を忘れているので、確認などするはずもないのだ。
宿でひとり食事をしていると、よく宿の幼子が現れる。話しかけてくるわけではなく、付かず離れずの距離で、自分の存在をアピールしてくる。視界に入るところを行き来したり。変な声をあげたり。ときには限界まで息を止めて、こらえきれなくなって、大きな息継ぎをするという、謎めいたアピールもしてくる。それで、そちらを向くと隠れたりする。
実はこれ、今の末っ子で3代目である。彼女の姉も、その姉も幼いころは同じようであったのだ。受け継がれる謎のアピール。この宿での食事のときの余興みたいなもんとして、楽しんでいる。