前回見つけた可愛い子に、写真を持ってたずねて行くのは夕方の予定であったが、暇を持て余したので、昼すぎに下見にやってきた。日中の暑さが和らいでくる夕暮れ時には子供だけでなく、大人もよく夕涼みしているが、昼間は人がほとんどいないので、家の位置の確認だけだ。
だが、それらしき家が見当たらない。記憶のなかでは、その家には玄関前に階段が数段あって、そこに手すりがあったはずなのだが、そんな家はどこにもない。その通りには、玄関に手すりがある家は1軒もなかった。玄関前に階段がある家もない。唯一、玄関に10cmくらいの小さな段がある家が1軒だけある。その家の場所は、覚えている位置とかなり近い。しかし、こんな低い段が記憶に残るほど印象深いだろうか。
通りを行ったり来たりして疲れたので、その通りにつながる目抜き通りのベンチで休んでいると、ひとりの女の子が通りから出てきた。目を凝らして見ると、本人にすごく似ている。前回から4年半も経っているので、かなり成長しているが、まず本人に違いないだろう。
女の子がこちらを見たので、手招きして呼ぶ。しかし、首を横に振り、どこかへ行こうとする。そりゃまあ、そうだろう。怪しいものね。なので、こちらから近づいていって、写真を見せる。無反応だ。前回、名前を聞いていたので、名前も言ってみるも、これまた無反応。英語はわからないようだ。その様子を見て、隣のベンチで休んでいた買い物帰りのおばあちゃんが、女の子に何か話しかけてくれたが、首を振るばかりだ。
本人に違いないと思うのだ。その子の顔は、あまりウズベキスタンでは見かけない顔立ちだし、経過した期間と成長具合も同じくらい。行き止まりの通りではないが、その通り沿いの家に住んでいる人以外には利用しないであろう通りから出てきている。仮に本人でなくても、姉妹とか親戚だとかだとは思うのだ。しかし、本人が首を振るなら、やむを得ないがどうしようもない。そして、彼女はどこかへ走って行ってしまいった。
あの子だと思うんだけどなあ、と思いながらベンチに座っていると、5分ほどで女の子が戻ってくるのが遠目で見えた。大人がふたり付いてきている。年齢的にお母さんとおばあちゃんっぽい。やっぱり彼女だったのだ。名前も合っていた。そうえいば、名前を教えてくれたのは、彼女のおばあちゃんであった。
写真を受け取り、やって来た方向へ引き返す3人の背中を見ながら、自分の確信に間違いがなかったことに、ひとり悦に入る昼下がりであった。そして、なぜあんなに低い段を、手すり付きの階段と記憶していたのかにも悩むのであった。