以前は日が暮れると一気に人通りがなくなり、街灯は少ない上に暗いもんだから、ダークな怪しさ満点の雰囲気へと一変していた。ところが今は、夜も人であふれている。あちこちがライトアップされ、お土産屋の露店も遅い時間までやっていて、ずいぶんと明るい。
そのせいもあって、子供から夜にも散歩に誘われるようになった。モスクやマドラサ、宮殿なんかの見どころ的な建築物がライトアップされている。さすがに入口は閉まっており、中には入れないが、ライトアップされた外壁や彫刻の入った扉なんかで十二分に見ごたえがある。
そういったところの前に来ると、当然のようにポーズを取りだす。一眼レフのような大きなカメラを持っていると、いつでもどこでも綺麗な写真が撮れると思われがちだが、そんなことはない。夜に人物の写真を撮るのはだいぶんと厳しい。ストロボや三脚などの機材を用意して、被写体が微動だにしない限り無理だ。残念ながらそんな用意はないので、可能な限りの範疇で頑張るしかない。
17世紀に建てられた宮殿にある、古いイスラム紋様の彫刻が彫られた昔のままの木製の門扉の前で、写真を撮っていたときのことだ。門扉を背にポーズを取っていた子が、驚きの声をあげた。何事かと思ったが、扉の向こうから声がしたそうだ。扉は鎖で閉じられ、錠がかかっている。子供たちがお化けに話しかけるように、恐る恐る話す。住み込みの警備員的な人かと思ったが、子供たちいわく観光客らしい。どうやら、閉館時間に気づかず、中に取り残されたようだ。
ライトアップされていない頃だったら、きっと誰も近寄ってこず、朝まで閉じ込められていたことだろう。